3月19日夕方、カタール・ドーハで日本代表は約1時間半あまりのトレーニングを行った。そのほとんどの時間を使ったのが、11対11の実戦形式の練習だった。

「大事じゃない練習はないからね」
 練習を終えた内田篤人がそう言って笑う。全体練習後には大津と共にザッケローニ監督から個別指導を受けていた。

「前の選手がボールを持ったとき、上がれそうなら上がれという話です。それはこの練習に限ったことじゃなくて、いつも言われていること。今日の練習中、『上がろうかなぁ』と迷って、結果行かない場面があったから。それで呼ばれたんだと思う。監督は本当によく見ているから。絞らなくちゃいけない場面で絞らないと『ウッチー』って、すぐに言われるし。まるで上から見ているみたいに細かい指示が飛ぶんだ」

 気温が連日5度を下回るドイツから、暖かいドーハへ移動。2月のラトビア戦で右太腿肉離れを再発。3月9日に復帰してから約10日が過ぎた。
「暖かいところだと、筋肉が緩むこともあるからね。でももう気にしていない。たとえ、もう一度怪我をしたとしても、それは過去に怪我をしたからというわけじゃないからね。もう100%だよ、俺は」
 特別なケアはしていないと語るが、必要な気配りは欠かしてはいないはずだ。

 リハビリに励んでいたころ、内田は「復帰の時期を決めてそこへ合わせるのではなく、とにかく100%治らないと戻らない」と強く言っていた。それでも、一番のライバルと対戦する3月9日のドルトムント戦。そして3月12日のチャンピオンズリーグ、ガラタサライ戦の2試合へ賭ける思いは、自然と募ったに違いない。

「『復帰時期を決めて、そこへ合わせるつもりはない。100%仕上がらないと戻ってこない』と言っていたけれど、やっぱりカレンダーを見るとドルトムントって書いてあるし、CLって書いてあるからね」とガラタサライ戦で打ち明けている。それでも「そこに一生懸命合わせてきたわけじゃないけど、リハビリを続けながら、時間が経ち、だいたいこのころかなと思っていたところに、たまたまドルトムント、チャンピオンズリーグがあった。試合はあとからついてきた」とも話したが、間に合わせられたことでの安堵感、喜びを間違いなく感じていたはずだ。

 しかも、復帰戦となったドルトムント戦ではすべてのゴールを演出する2アシストをマークした。しかし、試合後の内田は、「アシストはおまけだよ」「結果が出たからいいけど、まあ、普通だよ」と、いつも以上に淡々としていた。試合復帰を果たしたものの、肝心なのは試合が続く今後だ。そんな内田を見ながら、「だからこそ気を引き締めているのだろう」と思った。しかし、理由はほかにあった。

「僕はねぇ、結果が出たときほど、静かなんですよ、実は。感情を起伏させたくないから。悪いときは落ち込み過ぎず、いいときも気持ちを上げすぎず、普通にプレーしたいから」
 そして、ガラタサライ戦では同点ゴールをアシストし、ガッツポーズを見せている。
「恥ずかしい。見ていましたか? 見られたくない僕の感情を出すところを見ていましたか。やっぱりアシストが続いているので、そこは復帰して結果は欲しいですから。復帰して、またそのポジションで使ってもらっているので、これからも使い続けてもらうには結果が一番早いから。でもあのシーンは自分がアシストしたから嬉しいというわけじゃなくて、点が入って、2−2に追いついて、チームの雰囲気が変わったからね」

 しかし、その後に追加点をゆるし、チャンピオンズリーグ敗退が決まる。ドイツ移籍直後には「『チャンピオンズリーグに出られるからすごいね』ってよく言われるけど、チャンピオンズリーグって何がすごいの?」と言っていた内田だが、10-11シーズンにはベスト4へ進出。その大会の魅力を味わった。だからこそ、ベスト16での敗退を悔やんだ。

「抽選会いつ? 俺けっこう楽しみにしていたんだよね」
「どこと戦いたいとか、考えていましたか?」と聞く。
「何気に俺、イタリアのチームとやってみたいなって。スペインはバレンシアとかとやって、こういう感じかっていうイメージ通りだったけど、イタリアはインテルが崩れたせいで、イタリアっぽいイタリアを味わえなかった、だから、ザ・イタリアみたいなチームとやってみたいなって」

 今季のチャンピオンズリーグのハイライトを聞かれて、「前半戦の醍醐味はアウェイのアーセナル戦だった」と語った。そして、この大会で何を得たかを聞かれても結局は「終わっちゃったなぁ」という想いが口に出る。
「またリーグ戦で頑張って、イチから積み重ねていくしかないよね」と言うと、「簡単に言わないで」と笑ったが、その肩は落ちたままだった。リーグ戦とは違い、内田のチャンピオンズリーグ後の取材対応時間は長い。それだけ貴重な経験をし、語りたいことがあるのだろう。この日も約40分にわたり、名残惜しそうに語り続けた。

「ドルトムント戦のあと、少しリバウンドもありましたけど、別に痛くはないから。もっと筋力的にアップしていかないといけない。まだちょっと右と左の筋力が違うから。腿裏は同じだけど、腿前が違うと言われたから。コソ練を続けないと。人目につかないようにコソコソとね」
「鶴の恩返しみたいに?」と問うと、「そうそう。そういう感じ」と答えた。

 中3日で迎えた3月16日の対ニュルンベルク戦はベンチスタートで、出場機会はなかった。7日間で3試合はさすがに負荷がかかりすぎるという監督の判断だった。しかし、内田不在のシャルケは中位のニュルンベルクに敗れるという結果だった。ドルトムント、ガラタサライというタフなゲームで仕事をし、自身が欠かせない存在ということは証明できただろう。

 復帰後の試合やシャルケでの練習でも内田の動きは軽快だ。リハビリ中に鍛えた身体の強さが発揮されている。
「調子よく動けているとき、調子がいいときこそ、注意しなくちゃいけない。動けるから無理をしてしまいがちなんだよね」
 ドーハでそう話す言葉からも、コンディションの良さが伝わってくる。同時にだからこそ細心の注意を払うのだ。

 3月22日のカナダ戦に続き、3月26日にはW杯出場権獲得が決まる可能性のあるヨルダン戦が控えている。
「監督は大事な試合があると言っていた。まあでも大事じゃない試合なんてないからね。いいこと言うなぁ、ここメモらなくて大丈夫ですか?」
 記者を前に冗談を言いながらも、試合の重みは理解している。
「醍醐味じゃん、アジア予選のアウェイ戦なんて。笛に苛ついて、芝に苛ついて。だから面白い。楽しまないとね。楽しまないというか、そこがまた醍醐味だから。イラついてもしょうがない。今更わかっていることだから。楽しいじゃん、それぞれの国にいろいろな特徴があって」

 前回のアジア予選に限らず、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグでもアウェイ戦を数多く経験した。その難しさや厳しさも彼にとってはもう特別なものではないのだろう。平常心で大一番に挑むだけだ。W杯出場権を獲得したとき、内田は会心の笑顔を見せるだろうか? 彼のなかには、もうひとつの想いがあるような気がする。
「予選を突破したからと言って、自分がW杯に出られる保証はない」
 前回大会で味わった屈辱に似た想いが、内田篤人を成長させたことは言うまでもない。もう彼のことを攻撃だけの選手だという人は少ないだろう。だからこそ、W杯の舞台に立ちその醍醐味を味わうため、まだまだ戦いの日々は続いていく。今はその道程にすぎない。